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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)75号 判決 1984年5月31日

控訴人

ストウファー・ケミカル・カンパニー

右訴訟代理人

布井要太郎

右輔佐人弁理士

桑原英明

被控訴人

特許庁長官

若杉和夫

右指定代理人

高須要子

外三名

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人が昭和五四年一〇月一三日にした昭和四七年特許願第三八五六七号の特許出願についての出願審査の請求に対し、被控訴人が昭和五四年一二月一〇日付けでした不受理処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の補充した主張)

東京地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二四八号特許料及び割増特許料納付不受理処分取消請求事件において、同裁判所は、特許料追納期間(特許法第一一二条第一項)を徒過した事案について民事訴訟法第一五九条の規定によりその救済がなされる旨判示している。本件事案は、特許料の追納期間の徒過に関する事案ではなく、出願審査請求期間の徒過に関する事案であるが、審査請求制度の目的は、出願者に対し経済的意義を有する発明についてのみその審査請求をなさしめることにあり、特許出願者の側からすれば、七年間の審査請求期間は、その期間内に当該出願にかかる発明が経済的価値を有するとの判断をなしうる期間として観念することは、当然のことであるということができる。

ドイツ連邦共和国の特許出願審査請求制度の審査請求期間も七年であるが、この期間の徒過の救済規定として、ドイツ特許法は、その第一二三条第一項、第二項に、「出願者の責に帰すべからざる事由により、特許庁又は特許裁判所に対する手続(控訴人註、出願審査請求手続を含む)において、その期間を遵守することを妨げられた者は、その障害が除去された後二か月以内に現状回復の請求をすることができる。」旨の規定を設けている。なお、現行ドイツ特許法に右明文の規定が導入される以前においても、コーラーは、現行法と同様の事由が存在する場合に、現状回復による救済を認めている。

以上よりすれば、特許料の追納期間の徒過について民事訴訟法第一五九条が準用されなければならないのと同一の理由により、審査請求期間の徒過についても右の規定が準用されると解さなければならない。

第三  証拠関係<省略>

理由

控訴人は昭和四七年四月一七日に本件出願をしたが、出願審査の請求は法定の期間(特許法第四八条の三参照)経過後である昭和五四年一〇月一三日にしたこと、これに対し被控訴人が本件不受理処分をしたことについては、当事者間に争いがない。

特許法は、出願審査の請求をすることができる期間(特許出願の日から七年)につき、これを不変期間とするとも、また、この期間につき民事訴訟法第一五九条を準用するとも規定していない。民事訴訟法における不変期間は、例えば控訴期間、上告期間等における、判決の送達の日から二週間(第三六六条第一項、第三九六条)というように比較的短い期間に定められているものが多く、不測の事態が生じたために当事者がこの期間を遵守できなかつたというような場合も生じ得、そのような場合に、裁判を確定させたりしては、当事者に酷な結果となることがある。民事訴訟法は、このように、当事者がその責に帰することのできない事由によつて不変期間を遵守することができなかつた場合には、その事由がやんだ後一定期間に限つて訴訟行為の追完を許すこととしたものであつて、この趣旨は、法に当該期間を不変期間とするとの明文の規定のないものであつても、例えば上告理由書提出期間のように、その期間不遵守の結果直ちに裁判を確定させてしまうことが当事者にとつて酷になるような場合には、民事訴訟法第一五九条を準用して、その追完を許すべきものであると考えられる。

本件についてこれを見るに、本件出願審査請求期間は、これを徒過することによつて、裁判が確定するというようなものではないが、これを徒過すれば、特許出願は取り下げたものとみなされ(特許法第四八条の三第四項)、出願にかかる発明は審査されることなく、したがつて出願人は特許権者たり得る機会を永久に失つてしまうものであるから、その期間の懈怠の結果は出願人の不利益に結びつけられているものというべきであり(出願人が始めからその不利益を甘受しようとして出願審査の請求をしないことが許されることはいうまでもない。)、このように期間不遵守の結果が権利の得喪にも比すべき出願人の重大な不利益に結び付けられていることに照らせば、その責に帰すべからざる事由によつて右期間を遵守できなかつたときは、明文の規定はないけれども、不変期間に関する民事訴訟法の規定を準用して、その追完を許すものと解するのが相当である。審査請求の期間が七年という長期のものに定められているということは、右のように解することの妨げとはならないというべきである。すなわち、審査請求の期間を七年と定めた法意は、出願人に出願にかかる発明が経済性を有するものになり得るかどうかの成行きを見届けさせる期間としてはその程度の期間とするのが相当であるとされたからに他ならず、その間、出願人としては審査請求すべきかどうかの判断を留保しつつ事態の推移を見守る自由を法的に保証されているともいうべきものなのであるから、これを正当に活用して事態の推移を十分に見極めようとした出願人において、七年の期間の最後に当たり不測の事態が生じたため、右期間を遵守できないという場合も生じ得るところであつて、審査請求については七年という比較的長い期間が定められているからといつて、それが理由の如何を問わず手続の追完を許さなくとも出願人に酷に過ぎることはないとすることはできないというべきである。

以上のとおりであり、審査請求期間もこれを民事訴訟法の不変期間と同視して、これに民事訴訟法第一五九条第一項の規定を準用し、本件の場合、具体的に出願人が真実その期間を遵守することができなかつた責に帰すべからざる事由があつたかどうかを審理すべきものである。

そうすると、出願審査の請求期間に民事訴訟法第一五九条の規定を適用ないし類推適用する余地はないとして本件訴えを不適法却下した原判決は不当であるから、これを取り消し、民事訴訟法第三八八条の規定に従い本件を第一審裁判所である東京地方裁判所に差し戻すこととして主文のとおり判決する。

(高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)

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